症例紹介「髄膜腫摘出手術」

今回は実際に千葉どうぶつ総合病院に来院された、脳腫瘍(髄膜種)の症例について紹介いたします。

髄膜腫は脳を包む髄膜を起源とした腫瘍の総称であり、ネコの脳腫瘍の内では最もよくみられるものとされています。腫瘍の増大とそれに伴う周囲組織の障害により神経症状を発生させますが、ネコにおいては良性の腫瘍が最も多いとされており、摘出による根治が期待できます。

<閲覧注意>
本記事では出血を伴う手術中の画像が掲載されています
苦手な方はブラウザバックを推奨いたします

基本情報(患者情報および状態の所感)

  • 猫種:雑種
  • 性別:未去勢雄
  • 主訴:てんかん発作
    《現病歴詳細》
    約2ヵ月前から四肢をバタつかせるような挙動がみられた。
    てんかん発作として認識したのは約1ヵ月前。突然走り出して壁にぶつかった後、前肢をバタつかせていた。意識はなし。
    流涎がみられた。1分間ほど持続した後、フラフラしていたが数分後に元に戻った。
    約2週間前にも高所から落下した後、1分間ほど四肢をバタつかせていた。以降ボーっとすることが増えている。

実例(検査~手術~術後までのプロセス)

検査所見

  • 身体検査
    意識状態: 清明。
  • 血液検査
    特異所見認めず。
  • 神経学的検査
    明らかな異常所見なし。
  • X線画像検査 (胸部・腹部)
    特異所見認めず。
  • 磁気共鳴画像 (MRI)検査
    左側頭葉部に脳実質と境界明瞭な腫瘤状病変を確認。脳実質外病変を疑う。病変は造影剤で均一に増強される。髄液ライン明瞭。

    以上より脳腫瘍とそれに伴う構造的てんかんが強く疑われ 、脳腫瘍内の分類としてはMRI所見から髄膜腫を強く疑った。
    猫の髄膜種は摘出手術により根治が期待できる腫瘍であり、また本症例は既に神経症状が顕在化しているため、早い段階での嚢腫瘍摘出手術を計画した。

手術所見

以下簡単な手術の流れになります。
① 頭頂部より正中切開
② 側頭筋を切開・剥離を行った後、腹側に反転させ頭蓋骨を露出
③ 高速ドリルを用いて病変部直上の頭蓋骨を一部切除
④ 色調・硬度から腫瘍と正常脳との境界を確認
⑤ 腫瘍を剥離・摘出
⑥ 硬膜欠損部位は側頭筋筋膜で補填して、筋縫合および皮膚縫合を実施

摘出した腫瘍

術後所見

術後は複数種の抗てんかん薬を使用しながら発作や脳圧亢進の発生がみられないかを注視。
術後3日間の内で神経症状みられず退院。その後、抗てんかん薬の漸減・休薬を行いながら経過観察を実施中。 術後から現時点に至るまで明らかな神経症状は確認されていない。

術後提出した切除病変の病理組織学的検査の評価は髄膜腫であった。

【最終診断】
髄膜腫
髄膜腫に伴う構造的てんかんを疑う

最後に

てんかん発作のような神経症状を呈する疾患の診断には一般的な検査や、神経学的検査に加えてMRI検査結果が重要となる場合が存在します。神経症状を疑う様子がみられた場合は当院へご相談ください。